夢の住人

僕がいつものようにみんなとふざけて遊んでいるときにふとそれを見つけたのがみんなの家族も一緒に旅行に出かけたマイクロバスの中で、でもそれは僕ら子供たちにしか見えていないみたいだったけどそんなことはいっこうに構わなかった僕らは中に入ってみた。中はドラえもんのタイムトンネルみたいになっていて、抜けたところに僕たちは現実の世界とよく似たもうひとつのパラレルワールドを見つけた。ところが僕たちはその中に5人で入るのに出口ではいつも4人になってしまって、僕だけがそこにいなかった。一緒に入ったはずなのにそこに出た瞬間に僕だけがカメラみたいな存在になっていて他の4人の様子をどこか高いところからいつも見ているのだった。
僕らがもうひとつの世界に行っている間、元の世界では全然時間が進んでいないようだった。僕らは何度も出かけて帰ってくるたびに大人たちに自分たちが見てきたものについて話した。勿論大人たちは何かの映画の話を聞くかのようにそれをあしらうだけだった。
僕だけが実体がないことについて僕にはそんなに不満がなかった。それは帰ってきて話題を共有できないということがなかったからだ。むしろ一人だけが全体を把握できることが僕には楽しかったし、そもそも本当に映画の世界みたいな話だったから、僕自身がそこに主体的に存在して関わっていることにあまり現実味を感じていなかったからなのかもしれなかった。
そもそもこのパラレルワールドが一体どこで何を意味するのかをみんなはを散策しながら話し合っていた。僕から見るとそこは殆ど現実と変わらない世界だった。でもみんなには客観的な視点がなかった。それを持っているのは僕だけだったし、帰ってきて大人たちと話をしているうちに、結局のところ僕はそのパラレルワールドが何を意味するのかを知ってしまうのだった。そして何故僕だけがそこにいないのかも。
マイクロバスが目的地について僕たちは広い草原にキャンプを張った。日は暮れ始め夕飯の準備のために火を起こすからと僕ともう一人は薪拾いを命じられる。やはりそうなのだ。僕の推測が確信に変わる。
それでも僕は否定したかった。そいつが僕に殺意を持っていることなんて僕には到底想像が出来なかったからだ。でも薪を探しに入った森の中にぽっかり空いた草地に二人きりになると殺意は機械的にやってきたのだった。そいつは僕自信がこれから起こるであろう事実に気づいてしまっていることも知っていた。確かに僕はその実際を目の当たりにしているのだから、それはもう全て決まっているのだと思うしかなかった。それでも僕も一応は逃げようとして走り出し、そいつも極めて事務的なやり方で僕に向かって薪を投げてきた。「おまえは木の枝に頭をぶつけて事故死するんだ。」と叫びながら。
くだらない。そんなんで死ねるかよと僕は思うけど、全てはじめから決まっていたかのように4投目の薪が頭に直撃して僕は芝生の上に倒れる。そう。僕が見たパラレルワールドとは現実の近未来に位置する世界で、僕の実体がいつもそこになかったのは僕が死んでしまっていないからだったのだ。遠のく意識の中で僕は何の恐怖も感じないままにそいつが芝生を踏みしめながら近づいてくる音を聞く。
きのうはそんなゆめでした。