同窓会

よく分からないままに小学校から私立に入れられて電車通学を続け、高校を出るまで一貫校だった僕らには、24年の人生のちょうど半分を共に過ごしてきた友 達がいる。いるんだけど、高校を卒業する頃にはうんざりするほど長すぎる付き合いに人間関係の大事さとかは麻痺していて、それこそ部活で分かち合った仲間 以外はその後あんまり親しく付き合うことがなかった。いつからか僕は小学校の友達が地元にいないことを恨み、嘆いては、そのうち自分がどんな小学生生活を 送っていたのか、忘れてしまっていたのだった。

小学校6年の途中まで、僕にはテルという親友がいた。僕らは本当に仲が良かった。毎日のようにつるんでいたし、家は遠かったけどお互いにしょっちゅう行き 来していた。その当時の僕らと言えば、絵に描いたような悪ガキで、しょっちゅう万引きしたり、女子校のコと遊んだり、なんか問題を起こしては反省文を書か されたりしていた。いつも2人一緒だった。だけどそんな話はもう12年以上も昔のことだ。
小6のある時、僕らは今思えばくだらないことで仲違いをし、一言も口をきかないようになった。僕はガキだった。僕らの学校は小中高一貫校だったけど、小学 校から中学校に上がる時には割と厳しい審査があった。僕はテルと仲違いしたある日、中学に上がりたい一心でそれまで2人でつるんでやってきた悪行を全てテ ルに押し付けるようにして、一切の関わりを断つことを他の仲間と一緒になって決めた。いわゆるハブってやつだ。
結局のところその審査はガキの僕らが心配するほどに厳しいものじゃなくって、2人とも無事に中学に進学することができた。だけど僕には負い目があった。あ れだけ仲の良かった親友に対してしてしまったことを物凄く悔やんでいた。しかし、僕に謝る度胸がなかったのと運悪くその後6年間一度も同じクラスにならな かったこともあって、結局僕らの溝が埋まる機会は卒業しても訪れることがなかった。
そんなテルと今夜肩を組んだ。もうあれから12年がたっていて僕らはだいぶ大人になっていた。テルはちょっと太っていたけど僕との昔の思い出とか、僕の兄 弟のこととかをいちいち覚えていてくれて、なんだか僕よりでっかくなっていた。僕が昔西武ファンで一緒に応援に行ったこととか、しょっちゅう家に来て一緒 にミニ四駆をやったこととか、僕の初恋のコがテルのいとこのさやかちゃんだったこととか、小5のときのできたテルの弟が今はもう中3になったんだとか、一 緒に千葉の海に泳ぎに行ってテルが海中で手を切って僕の名前で保険証で治療したこととか、僕が覚えているより懐かしい想い出ははるかにいっぱいあって、テ ルの手にはまだそのときの傷が残っていた。僕はそういうことを結構忘れかけていて、僕にもそういうガキの頃があったんだなと改めて思い出していた。だけど 12年間のブランクをとても埋めることはできなかった今夜は高校卒業以来、はじめての同窓会だった。
僕はテルに、もうあんな面倒な時代を繰り返したいとは思わないけど、それでももしあの頃をやり直せるんだったら真っ先におまえに謝りたいと詫びた。そして それは僕の中でずっと傷になっていたんだと。テルは許してくれていた。僕は何だかそんなテルに甘えてしまったような格好になった。今夢の中の世界から帰ってきて冷静になって整理してみると、もっとちゃんと謝らなきゃいけなかったような気がする。


テルは歯医者の息子で、僕らがまだ2人がつるんでいた頃、僕は将来歯が悪くなったら絶対テルに見てもらうんだと思っていた。それは幼かった僕らにとって、 それこそ8×8が64だとか、静岡はお茶とみかんの名産地だとかいうよりもあたりまえのことだった。今テルは歯科大に通っていて、うまくいけば再来年には 歯医者の資格を取ることになっている。僕の右下の親不知はその手前の歯を押すように真横に生えていて、切ったりしなければいけない大げさなな手術になるそ うだから、できることなら放置しておきたいと思っていた。だけどテルがちゃんと無事、歯医者になったらそれはテルに抜いてもらおうと思っている。