INAX対談:塚本由晴 vs 五十嵐淳

雨はさらに強く降る。
僕のいない1年の間にメキメキと頭角を現わしてきたらしい彼とt師の対談。北海道旅行中に本人と会ったことがあると言う研究室のメンバーと話ながら雨の中を会場へと向かう。聞いたところどうやら言葉を駆使して建築を語るとか大きな物語には興味のある人ではあまりないみたいで、非常に感覚的にやっているみたい。f村氏とアンチモダンでない真のポストモダニストだみたいな話をしているうちに会場に着く。大盛況。
聞いてみると本当にレトリックとか物語のない人で、その割に明快な構成すぎる構成が鼻につく。t師もなんとか彼の秀でた感覚を巧みなリテラシーをもって読み取ろうとするが、あまりに五十嵐さんがのらりくらりと「僕は居心地のいい場所をつくりたいだけなんです」みたいに爽やさに半ばあきらめモード。会場からのいくつかの質問を経て分かったのは、彼が設計の段階で自分の決定したことを与条件として次の決定を制限していく、その巧みさそれゆえに彼の作っているものが明快な構成をもって見えるのだ、ということ。
勿論、それはt師をはじめ多くの建築家が普通にこなしていることだと思うし、僕は改めて建築家にはもっと言葉が必要なのだと気付いた。せめて言葉なんか必要ないという言葉でも。


終わって後輩達と雨の銀座を有楽町まで歩きながらすごく濡れる。偶然見つけたガード下の昭和初期をモチーフにした飲み屋で酒を飲む。雨の音が激しくなっていくのがガード下の空間にこだまする。飲みはじめたのが遅かったから気付くと終電の時間で、雨の中を皆で慌てて駅まで急ぐ、そんな金曜日。
結局終電を逃して雨の中を一駅歩く。雨は身の危険を感じるほど降って僕はびしょびしょに濡れた。僕はこのままの勢いで降って雨がこの辺り一体を沈めてしまうところを想像した。