ナラタージュ/島本理生

ナラタージュ

僕はつくづくこの終わりそうで終わらない長い冬の終盤が嫌いで、ミュンヘン以来ここ3年くらいは毎年死にそうな思いでこれを乗り越えている気がする。そんな時期に手にするには一番よくない類の本だった。
島本理生はたとえ辛くても屈託のないこどものように笑うような小説を書く人として僕は若い作家の中でも特に好きな一人だったが、彼女も20代に入って誰しもが迎えるような不安定な時期を迎えたのだろうか。
それでも読み終えてひた向きに生きようとする強さを感じられてよかった。
「今日のこともいつか思い出さなくなる。そしてまた他の誰かをこの人しかいないと信じて好きになる。」
20歳の頃どんな風に好きな人のことを思い、傷つけたか。ひどく繊細な描写がそれを僕に思い出させて、懐かしくなった。
考えてみれば昔のことをなるべく思い出さないようにすることで、今を楽しく生きているような気もするけど、もうそろそろ懐かしんでもいい歳なのかもしれないとふと思う。