インドが1 東京→デリー

仕事を辞めてからの2日間。ビザを申請したりハローワークに行ったり、旅の準備をしたりと非常にバタバタしていたせいで、いまいち旅に出るという実感がなかったものの、成田の搭乗ゲートへ向かうモノレールに乗り込むと、急にそれが喜びとして胸にわき上がってくる。
乗り込んだエア・インディアの飛行機はいきなり公衆便所の匂いがして、僕はこの旅が匂いに溢れたものになりそうだと覚悟する。しばらくするとその匂いも強烈なスパイスと香水か何かのインド人特有の匂いにかき消されて気にならなくなった。


約7時間のフライトの最後に、ゆらゆらと頼りない体勢のまま飛行機が、それでもなんとか着陸したのが現地の18時近く。窓から外を見ると雲ひとつない晴天も、どこか霞がかった空のせいで、沈みかかった太陽が5倍くらいに膨張して空全体をオレンジ色に染めていた。きっとこれは空気のせいで、インドで見る空はいつもこんな感じなのだろうと僕は思った。きれいだった。
空港を出てバスを待つ間、仲良くなったアメリカ人のおじさんエドと話す。50歳くらいだろうか、一人旅らしい。やってきたバスは昭和30年から走っているんじゃないかと思わせるボロボロのバスで、エドは初めてイタリアのナポリに旅行で行った子どもの頃を思い出すよと言った。まったくいつの話だか。


街への道のりの交通密度はものすごくて、一応書かれている4車線の道路に5列の車がひしめきあって、その隙間をものすごい量のクラクションが埋めていく。その様子を見ているうちに僕はなんだか違う惑星に来てしまったような気がした。
ニューデリー駅付近にある安宿街パハールガンジに着いてバス停で知り合った19歳の少年と共に宿を探す。たまたま入った2件目の宿がツインしか空いてないというので、なりゆきでそのまま部屋をシェアすることになった。
通り沿いの部屋だったので遅くまでクラクションがうるさかった。それが止むと今度は野犬の遠吠えが始まる。インドの夜は音にあふれていた。