空気人形 / 是枝和裕

crz_joe2009-11-01

切ない。
面白いから見てみてとはいいにくいけど、いい映画でした。


個人的に是枝さんは今の日本映画界の中で一歩抜きん出ていると思う監督。


面白かったのは切り取られている都市の構図。
実際に名前が出てくるわけじゃないけど舞台となっているのが中央区の湊。
築地の少し上流の隅田川沿いの下町なのだけど
堤防の向うに見える月島の高層マンション群と対比的な風景として切り取られている。
気になったのは、からっぽな人間が住む町として
一昔前なら堤防の向うの高層マンション側が舞台になりそうなところ
再開発の手が届ききっていないような下町の工場街の方がその舞台として描かれている。
経済格差と人間の空虚さを直接むすびつけた表現になっているところ
今の時代を象徴しているのかもしれないと思った。


劇中に出てくる吉野弘さんの詩が秀逸。

生命は
自分自身で完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする

生命はすべて
そのなかに欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分
他者の総和
しかし
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思えることさも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?

花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光りをまとって飛んできている

私も あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない


いつでも思いもかけず誰かのための虻になっているという可能性って捨てきれない
そういうものが社会全体の活力になって欲しいと思う。