スティル・ライフ/池澤夏樹

スティル・ライフ (中公文庫)
87年の芥川賞作品。気に入ったのでいくつか抜粋。
「地球の表面の形っていうのは全部何かが降ってきて、それが積もってできたんじゃないかって気がした。(中略)山になっているところには山の原素が降り積 もり、熱帯雨林にはみずみずしい緑色の、たぶん葉緑素をたくさん含んだ熱帯雨林の原素が降って、砂漠には砂や礫や岩が音もなく降って、それで地形ができ た。」
「これ(逃亡生活をさして)は草食動物の暮らし方なんだ。巣を作らない。行く先々で身辺にあるものを食べる。こちらから獲物を追うようなことはしない。なるべく周囲に溶け込む。急激な行動で人目を引かない。肉食動物と対峙するような事態は絶対に避ける。」
日常に新しい視点を持ち込む小説家って好き。建築家もだけど。日本人は草食動物かなあ。

四十回のまばたき/重松清

四十回のまばたき (幻冬舎文庫)
彼の作品にしては珍しく普通の家族が登場しない長編小説。事故で妻を失った売れない翻訳者の主人公が、妻の唯一の肉親にして「冬眠」という奇病を持ちなが ら妊婦である妹と、彼が翻訳を手がけたアメリカ人小説家の出会いによってその心を解き放たれていくみたいな話。村上春樹の「ノルウェイの森」とか、身近な 人が死んでしまった欠落感とかになんとなくひかれてしまう僕みたいな人にはオススメします。ところでタイトルの意味は英語で転寝(読める?)だそうで。