脳の恋人

一方で僕は玄関のレバーハンドルをジャスパー・モリスンにしたいんだけど予算内かどうか確認していた。先生には内緒で押し通してみようか。

また遊びにきてください。と言い残してM本は研究室を去っていった。大掃除はおろか謝恩会にも顔を出さないらしい。僕はふと彼の顔を見るのがこれで最後になるんじゃないかとふと思った。妙に割り切れた態度と既に3件のアルバイトを掛け持ちしているというその姿に、長い間1人旅を続けてちょっとどこかおかしくなってしまっている人のような歪んだ匂いを感じたからだ。

僕らがお茶の時間に食べようと思っていた白い恋人をちょっとした間違いでそのM本が持っていってしまっていたことにコーヒーが入ってから気がついたとき、僕らはもう人生で二度とこれほど食べたいと思うことのないほどそれを欲したが、それはやはり脳がこれからそれを食べるぞとすっかり理解してしまっていたことに起因する生理的に避けられない現象であって、結局僕らはM本を無理やり呼び戻してそれを口にして、僕は何にしろまたM本の顔を拝むことができたなあと無感動に思った。