GK論

ゴールマウスを守ることはボールとプレイヤーとゴールポストの3者と自分の距離を揉んでいく作業に他ならない。逆サイドにもう1人プレイヤーがいるときはどうするか、プレイヤーとボールに距離があって向かってくるときどうするか。そういう瞬時の判断から今ゴールポストとの距離をあけてボールとの距離を揉んで大丈夫なのかとか、プレイヤーと右のゴールポストとの距離を揉むフリをして逆サイドのポストとの距離を揉める体制を用意しておくか、といったように他者との距離を揉むことで自分の立ち位置をデザインする行為なのだ。


この論理で行くとキーパーの仕事はシュートを止めることではなく、シュートを外させることに喜びがあるのだと言える。僕だけでなくシュートが枠を外れることが分かる瞬間手を上げるキーパーがたくさんいるけどあれは決してマイボールを主張しているのではなく、自分の仕事の、距離の揉み方の正当性を主張している行為なのだ。


距離を揉む上では相手プレイヤーの持つリズムを正確におさえることがひとつの課題となる。遊びでやっている場合は大概ボールを受けてシュート体制に入りボールをミートするまでの一連のリズムというのに秀でた人は少ない。むしろ怖いのはあまりサッカー慣れしていない人のほうで、落ち着いて蹴れない人。そういう方がプレイヤーとゴールマウスとの距離を揉むタイミングを外されやすい。


1:1になってしまったときなどには特に相手プレイヤーのリズムを如何に正確に把握しているかがカギとなる。こういう状況下ではキーパーも当然のようにトリックをしかけることになる。例えば相手プレイヤーがキーパーから見て右手方向からくるとき大概の人は対角線上、つまりキーパーの左手側を狙う。だからプレイヤーとボールとの距離を揉む時に、右側のポストとの距離を少しだけ多めに揉んでおいて、どうぞ左に打って下さいという状況をつくっておく。そうしておいて相手がシュート体制に入ってからミートするリズムの間に左側のポストとの距離を揉むのである。大袈裟なようだがフットサルくらいのゴールの大きさなら身体は右に飛びながら左に手を伸ばすというただこれだけのトリックで大概のシュートは防げるのである。
もう少しうまいプレイヤーと対峙したときは逆で右手側をあけておく。そういう人は角度のないシュートほど決まりやすいことを経験的に知っているからである。ただし基本的には相手のリズムをきちんと把握してこの距離感なら2タッチでシュートだろうからもう一歩プレイヤーとの距離を揉んでおいてその上でこのタイミングでもう一度ポストとの距離を揉んでいけばボールに触れる、もし触れなければそれは外れるという計算だというのを瞬時に判断するのがキーパーの職能なのだ。