週末ライフと傘の行方

5日ぶりの週末で僕はクリスマスムード一色の街にふらりと買い物に出かけた。外は冷たい雨が降っていて僕は傘を持っていなかった。僕はその時傘を持っていなかったのではなくて傘を本当に1本も持っていなかった。ふと僕は僕がミュンヘンでなくした傘たちのことを考えた。


1本目の傘はBMWミュージアムに行ったときになくしてしまってオレンジ色の傘だったからきっとミュージアムの若くてかわいい係員の女の子に拾われたのだと思うのだけどその子も彼氏の車の中に置き忘れてしまってその後2人は別れてしまったから今はメルセデスの中に置き去りになっているはずだ。


2本目の傘は地下鉄に置き忘れた。買ってから何日もたっていなかった。一度はそのとき隣に座っていたいかにもバイエルン出身ですみたいなビール腹で白い髭を生やしたおじさんの手に渡ってそのときおじさんが傘を持っていなくてずぶ濡れになっている女の子を発見したからおじさんは僕はもう一本持っているからと言ってその子に渡してその子はあんまりかわいいとは言えないけど優しい子だったから今もその傘を大事に使っていてときどきおじさんのことを思い出している。


3本目の傘はKRVが来て一緒街を歩いているときに雨が降っていたので仕方なく買った。そして何故か今はデルフトにある。


4本目の傘はどこで買ったか忘れたけどヴェネチアの強い海風にやられて駅のゴミ箱に消えた。どうなったかは知らないけど彼がもはや傘でなくなってしまったことは確かだ。


5本目はビザを取得するために役所に向かう途中にふらっと立ち寄った雑貨屋で安く買った。でも本当はもう傘を買うのをやめようと思っていた。2日後1限のヘルツォークの講義に出て置き忘れた。2限で席に座った女の子はそれを拾わなくてその日はそれ以外にその教室で講義がなかったから夕方掃除に来たおじさんが拾ってあまりに安物だったから捨てようとしたんだけど捨てるならと欲しいと彼の同僚で黒人の大男が言ったから彼が持っていったけど彼の巨体をカバーするにはその傘は小さすぎて彼の体はいつも濡れてしまうのだけどそれでも彼は傘を他に買う気も経済的余裕もなかったから今でも愛用されていて時々僕は彼が体を半分くらい濡らしながら歩いているのを後ろでずぶ濡れになりながら見る機会がある。


今日はそれほど雨も降っていなかったからずぶ濡れではなかったけど少し湿りながら日本に送るクリスマスカードや何やらを探していた。今街にはあちこちに木組みの小屋が所狭しと建ち並んでクリスマスの飾り付けやら人形やらお菓子やらリースやらを売っていてどれもすごくかわいくて見ているだけで楽しいのだけれど、次にそれらを買って日本に送ることを考えたらきっとセンスない贈り物になるだろうと思って僕の感覚がこっちの土壌に染まりつつあることが分かった。この感覚に関して言えば直接建築やデザインには結びついていかないかもしれないけれどそういうバックグラウンドの重要さを僕は信じている。


クリスマスカードはなかなかいいものが見つからずにいた。僕は朝友達に見せて貰ったクリスマスカードが一番カワイかったと思いながら何枚かを手にした。4 時を過ぎて暗くなってきたので不服ながらも引き上げようと最後に入った店でカードを2枚買った。そこで買った人に無料で配っていたカードこそ友達が朝見せてくれたもので、僕は何だか幸せの青い鳥みたいだと思った。