脳と仮想/茂木健一郎

脳と仮想
この時期本なんか読んでていいのかと思いつつ、渋谷図書館からの返せ返せ電話に、一端返したら予約がいっぱいで次がいつになるか分からない強迫観念からコンペ明けの眠い目をこすりつつ読む、保坂和志の小説に近い科学本。
サンタクロースがいないことは誰も知っているけど、欲しいものを考えることとか、いい子にしていないとプレゼントがもらえないよとか、そういうようにして支えられているサンタクロースの「仮想」は、科学的な正否がはっきりした成熟した社会の中においても尚、我々の生活を支えているというのがこの本の全体。
たとえば科学的に再現の可能な全く同じ色を見ても、ある人は夜の海を想像するかもしれないし、ある人は墓石を想像するかもしれない。
そういう意味で「仮想」をちゃんと狙ってデザインできる力というのはすごく大事だと思うしそのことこそを僕はいつも考えていると言ってよい。
「仮想」が一番うまくデザインされている身近な例としてお笑いがあると僕は思っていて
「仮想」が前提としてないとオチは成立しない。
たとえばラーメンズは第15回講演アリスの1コントの中で、
小林賢太郎は突如「この謎はおよそ12分後に解けます」という前振りをしておいて
その12分後に別ネタの中で偶然を装ってそれを明らかにする。
この瞬間笑いと共に会場に広がる感嘆の中には、そこに12分前の「仮想」があるからで
純粋に人を感動させたいという思いで建築に携わっている人間としては
こうした笑いとか感嘆の中に「仮想」のデザインがあるのだと思えることは
非常にためになる。