インドが4 バラナシ

3時間遅れて着いた電車を降りると、外は異様に暑く、自分がエアコンの効いた寝台に乗っていたことを今更気づく。
サイクルリクシャーでガンガー(ガンジス川)方面に向かい狭い路地を歩いてホテルを探す。
牛が正面から来ると横に避けないといけないくらい路地は細く、油断すると糞を踏んで滑る。
少し長居することになるだろうと思っていたのでガンガーが眺められる安い部屋を所望し、何軒か歩いてようやく汚いけどそれなりの部屋をみつける。


河原は雨期には水没するという対岸がちょっとした砂漠のようになっていてやはり雨期には水没しても沐浴出来るようにデザインされている階段状のガートに座っているだけで、ものすごく開放感があっておだやかな気分になる。
メインのガートは祭りっぽい雰囲気を匂わせていて僕はこの町に日本人をはじめとする多くの観光客がどっぷり浸かって抜け出せなくなる理由が分かる気がした。この町の道が川に近づくにつれて細っていく構造やその河原にあるフュネラルな感じがこの町から人間をつかまえて放さないんだろうと思った。


暗くなるのを待って火葬場へ向かうとちょうど白い布に包まれた男性の遺体が燃やされようとしていた。
僕はなんとなくそれを最後まで見届けないといけないような気になって、火がゆっくりと遺体を包んでいくのを見ていた。薪が十分でなかったのかその置き方が悪かったのか、火はなかなか頭の方まで回ってくれなくて、見ている方がドキドキしてしまう。
燃えている横では野良犬が暖をとり、子ども達はふざけていて僕の横には寄付をつのるインド人が立ち替わりやってくる。静粛にしているのは僕ひとりくらいだ。
ある程度想像はしていたけど、こんなにも死が日常にあふれているリアルとして感じられるとは正直思わなかった。


案の定火の回りきってない頭部が布から出て、焦げ付いた顔を僕に向けていたが、その形が分かるのも少しの間のことだった。煙が風に吹かれて流れてくると焼き肉の匂いがした。ときどき係の人が棒で火をつつくと、真っ暗になった空に火の粉がきらきらと舞い上がった。せめて火の粉は盛大に舞って欲しいと僕は思った。