ネパール2 カトマンドゥ

朝食を求めて街を徘徊する。入ったレストランがすごく丁寧でサービスという概念についてはどうやらこの国はインドより優れているらしい。

広場の王宮に入ると、組石造の壁と木の架構でできた大きな建物に囲まれる。屋根や窓枠が木造なので体感的にはほとんど木造だが、庇の下にナナメに張り出した格子から下を見下ろすと地面からの高さが不思議な感覚。下から見上げても大きくてもっさりした感じと木造の軒のギャップが心をくすぐる。



ダルバール広場にはたくさんの塔が残っていて学生服を着た子どもが待ち合わせをしていたり、ほとんど路上生活者のような子どもが座り込んだり遊び回ったり排泄している一方で、塔の基壇を利用して洗濯物を干したり、店を開いたりしている人がいて、ものすごくカオティックだ。ハトに完全に巣くわれているし野良犬も寝放題。歴史的な建物に対する人々のアプローチとしてこれほどにフランクなものも見たことがないと僕は思った。10年して来てみたら近代化が進んで広場は観光地として囲われているかもしれないと思ったが、きっと10年前に来た人も同じことを思ったに違いない。


だいたい僕がファインダーを覗くとき、その中に見つけようとしているのは純粋な建築写真や人間の写真を除いて主に二つくらいだということに気づいて、ひとつはそこにある風景や様式をなるべく抽象化して現代的なデザインにも通じうる要素として抜き取ることでもう1つは風景や人の重なりにストーリーのあるコントラストを抜き取ることで、後者の方が撮っていて楽しいのだが、この広場にはそういうコントラストのある風景が多く見受けられた。


しばらく歩いてレンタサイクル屋が見つかったのでマウンテンバイクにまたがって颯爽と走り出す。かなりアップダウンに富み道もボコボコなカトマンドゥは街乗りと山下りの両方を同時に楽しめる街だ。
ひとまず西に向かって丘を上がり、カトマンドゥ最古の寺院と言われるスワヤンブナートに着く。
猿たちを横目に急な階段を上がると天空の世界が広がる。さすがにこの空気の汚さでヒマラヤは見えないものの、4〜5階建ての煉瓦造の建物でびっちり埋めつくされた街の風景と、盆地なのでぐるっと回る山の風景が圧巻。


すっかり水を得た魚のように坂を下って市街を突き抜け、東のネパール最大の寺院パシュパティナートへと向かう。ガイドに案内してもらって火葬場を見る。
ちょうど遺体が火葬場に運ばれるところで火葬そのものには立ち会えない女達はおいおいと泣いていた。バラナシでは日常的すぎたあまり現実感がわかなかったが、ここの死にはちゃんと悲しみが伴っていて、死ぬこと、ある日突然動かなくなってしまうことに対するとまどいや恐怖と、その背後にある宗教の大きな存在の関係が分かりやすく見えた。いつかこうして灰になって川に箒で掃き捨てられてしまうのかと思うとやっぱり少し怖い。
でもその恐怖に対する立ち向かい方がもしかするとこの国と日本との経済格差そのものなのかもしれないと僕は思った。怖いから何かを築こうとするか、怖いから神にエクスキューズするかの差だ。考えてみれば宗教の強い経済大国などないわけだから。


夜広場に面したルーフトップレストランに上がってみる。首都の中心地とは思えない暗さだったがその暗さを楽しめる環境はすごくいいと思った。夜は暗い。あたりまえのことだ。今じゃ誰も月明かりを詩にして読んだりなどしない。