イン9が9 ジャイサルメール

駅を下りると噂通り客引きがすごくて、僕はプラカードを持った濃いおっさんたちの群れからガイドブックで目星をつけていた名前を探し出して選び車に乗る。なんだか合格をつげる審査員になった気分だ。
チェックインをすませシャワーを浴びてもまだ7時で、ベッドに横になる。とりあえず2泊する予定にしたので今日は城には入るまいと思い街を練り歩いた。


狭い路地のためにリクシャーや車が入って来れないので静かなのがこの街のいいところだ。黄金色の石積みでつくられた街もなかなかキレイで装飾の凝ったものが多い。貴族の邸宅であるハーヴェリーをいくつか見たが、あっという間に街が終わってしまったので結局城の門をくぐる。黄金色にそびえ立つ高い壁と間に生える木々を見えいるといつのまにかラピュタの音楽が頭になり始める。
旅とは宮崎アニメの原風景を求めてするものなのだw。



城壁の中に上がっていくと普通に街があって使われている。ただ一番おいしい外周部の要塞が連なる通路部分は街の裏側としてほとんど公衆便所となっていて臭い。下水がちゃんと完備されていないからなのか。


そこから駅に向かい次の目的地へのチケットをとることにする。駅の3つある窓口の1つだけが翌日以降の予約窓口で、そこだけが長蛇の列だったがどうしようもなかった。僕の前には太田光もしくはピーター・アーツ似のインド人がいて、その前にはダスティ・ホフマン激似のインド人がいる。
思うにインド人には結構美男美女が多い。単に数が多いからなのかかもしれないが。
窓口はひとつな上になぜかレディファーストだということか女性は割り込めるシステムで、あまりの列の長さにうんざりした欧米人カップルが彼女を使って割り込み彼氏の分もとろうとしたのに、さすがの太田光は黙っていられないらしく詰め寄っていった。僕は心から応援したがさすがに強制排除出来るくらい強気でもなく、太田はあえなく戦いに敗れた。
列は代理店のおじさんがまとめて買ったりしている分なかなか進まない。僕は少ない手数料のために並んでチケットをとるおじさんの毎日を思った。2時間を結局棒立ちで過ごし、僕は社会がではなく人間がこの時点からだいぶ進化したと強く思った。


こうして待つのが当たり前の世界では彼らはせめて全く使ってない窓口をもう1つあければいいのにとも思わないしネットでチケットを取ろうともしない。その点、常にいろいろな情報を駆使出来る現代人は他にどういう改善策があるか、どうすれば楽かとかいくらでも考えが働く。IT革命によって変化した一番大きなものは社会でも流通でもなく、人間の考える力なのだと僕は改めて思った。ニュータイプみたいなものだ。
いずれコンピュータの情報処理能力が上がればきっとたとえば僕が死んだ後にもこうして書き留めたことをデータベースとして、最新の映画をコンピュータに見せたら、僕ならこう言うみたいなコメントが出てくるに違いない。あるいは当時の社会的状況と著作をベースにして、アインシュタインならこう言うねとかヴィトゲンシュタインならこう言うねとかできるようになるに違いないと、太田光の背中を2時間見つめながら僕は思った。


宿に戻って近くのサンセットポイントに座って夕日を眺めていると、たくさんの子ども達が施しをくれとやってきた。砂漠地帯は農業がないからこういう子ども達は本当に貧しいのかもしれない。僕はもっと自分の手で何かを得られるように頑張れよと日本語でまくしたてた。むちゃくちゃだ。