ラッシュ・ライフ/伊坂幸太郎

ラッシュライフ (新潮文庫)

ラッシュライフ (新潮文庫)

旅中に読んだ本シリーズ4。
バラナシの貸本屋で借りる。
インドのバラナシでガンジスを見ながら読むにはいい本だった。
名作と思う。5人の主人公の周りのストーリーが少しずつ絡んで小説の全体をつくっているのだが、面白いのは時系列をバラバラに組み替えていることでそれがミステリーとして成立していること。読んだことのないミステリの在り方。
村上春樹的なありそうでありえない日常を描いておいて、そのありえなさを説明してくれるミステリーとしての役割がとてつもなく爽快。

「神について考えてね、俺は俺なりに分かったんだ。内蔵の定義を知っているかい?1つに「自分でコントロールできない」ことが挙げられる(中略)。
で、考えてみるとだ。この関係は人間と神の関係に似ているんだな。俺と胃だよ。俺は自分の意志で勝手に生きている。死ぬなんて考えたこともない。誰かに生かされているとも思ったことがない。ただ、そんなことは胃がまともに動かなくなったら途端にアウトだ。(中略)俺は胃を直接見られない。せいぜい、胃が発する警告やしるしがどこかにないかと気を配ることしかできない。後は祈ることだ。内蔵ってのは基本的には俺が死ぬまで一緒のはずだ。いつも見えない場所で、そばにいて、一緒に死んでいく。神様と近いだろ?」
「蚊なんて、人がいつも無造作に両手で潰しているだろうが。神様も意外にそんなもんなんだ。近くにいる。人はそのありがたみに気づかず平気でぱちんぱちん、叩いて殺しちまってる。神をな。それでも彼らは怒りはしない。神様だからだよ。俺たちが日常的に殺しちまっているもの。そういうものに限って神様だったりするんだ。」
「オリジナルな生き方なんてできるわけがない。世の中にはルートばかりがあふれている。人生という道には標識と地図ばかりがある。道を外れるための道まである。森に入っても標識は立っている。自分を見つめ直すために旅に出るのであれば、そのための本だってある。浮浪者になるためのルートだって用意されている。」
「とにかくだ。この原始的な動物(プラナリア)ですら、同じことの繰り返しよりも自殺することを選ぶ。」