舞姫通信 / 重松清

舞姫通信 (新潮文庫)
重松清という人はいつも、誰しもの中に潜在的にある願望や衝動をその小説の中で露呈させていく。例えばそれは殺したい衝動だったり、子供や妻とやり直した い願望だったり、誰かをいじめたい衝動だったりする。この話でのそれは「自殺願望」だ。根拠の無い自殺で自分そっくりの双子の兄をなくした主人公とその兄 の恋人の話で、そこには2人の自殺願望を持つヒーローが出てくる。ひとりは主人公の勤める女子高で数年前に自殺した舞姫で、もうひとりは芸能界の仕掛け人 である兄の恋人が売り出そうとする、心中に失敗して自分だけ生き残った男。そしてヒーローの登場によって煽られる若者の自殺願望と残されてしまった主人公 たちの空白のその先を巧みに描く。よく調べられていて共感できる部分もあるけど、こういう話ってやっぱり伝えようとする結論が見えちゃうからちょいと興ざ め。そこが狙いなのだとしたら相当なもんだけど。