この人の閾/保坂和志

一番好きな作家にあげる一人の代表作(芥川賞受賞)を実は読んでいなかったのを古本屋で単行本で見つけて買って、読んでみるとその後の彼の作品のベースとなっている認知と意識の間にある深層への誠実な追求でしかないが、やはり面白い。
特に表題作でない「東京画」には建築を学ぶ人間にとって非常に興味深い記述が多く、街の風景や人々のアクティビティへの認知と認識の間を興味深く描いている。それは「住宅」「商店」「縁側」など用途や機能によって記号化される建築言語の解体であり、どういった視覚的認知がそれを再定義しうるかということの記述で、視覚的言語学の体系を読み解いていくとでも言うべき感覚。塚本さんがシンパシーを感じるのが非常にうなずけるし、建築のリテラシーを鍛える意味で読むことを勧める1冊。
この人の閾 (新潮文庫)